第三話でヨハネのペンの指示で小萌先生が発動した、回復魔術について。
その前に、ヨハネのペンについて少し書きましょう。
恐らく、ヨハネの自動書記のことでしょう。記憶が曖昧ですが、使徒ヨハネに天使が降臨して聖書かその原本の一部を筆記したという逸話です。これを応用して、インデックスの肉体に何かを憑かせ、魔術的に正確な対応をさせているのだと思われます。
起動はオートのようなので、想定される状況におかれると自動的に魔法が発動するように、恐らくインデックスに複雑な魔法をかけているのでしょう。後に幻想殺しによって結界が破壊されますが、それがヨハネのペンだった可能性は高いです。これは10万3000冊の魔導書を守る以上に、インデックスを保護する要素が強かったと思われるので、ちょっとどうだかなぁ、とは思います。ただ、この魔術がインデックス自身に負担をかけているとのことなので、致し方ないのかもしれません。あまり物語中では出てきませんが、強硬穏健派でもいたなら、インデックスは殺すに越したことは無い危険人物です。利用用途も見出せていないままその命を永らえさせたのは、むしろ慈悲にさえ思えるのですが・・・。
話が逸れました。回復魔術に戻るとします。
全体的な感想を言うとすれば、非常にオーソドックスで丁寧な描写をしていて、見ていて嬉しくなるほどです。
ただ、呪文についてはやや乱雑な感が否めません。どちらかというと、「早い」ですね。まぁ尺の問題もあるので、そこは追求してはいけないのかもしれないです。
小萌先生の即席術者っぷりも見事です。普通、この状況でここまでヨハネのペンの指示を素直に飲み込めません。怖がって当たり前です。詠唱やイメージングへの集中力も凄まじい。本当にインデックスさん(ヨハネのペン)を信頼して、完全に魔法使いになれています。土壇場で上条さんが彼女を選択して、本当によかったです。もう、彼女の人間性のなせる業としか言いようがありません。
反面、ヨハネのペンさん、随分と強引且つ乱暴です・・・。自棄とか駄目元とか、そういう言葉のほうが似合います・・・インデックスさんにとってすら初対面の小萌先生に対して、文化や信仰の問題などまでまるで鑑みていない様子です。部屋の縮図についてもかなりいい加減です。部屋には本が散乱していますが、魔術的に見て、本は非常に大きい意味を持つはずです。それも、小萌先生の蔵書ですから、随分と超能力に関する書籍があったはずなのに。テレビも、魔術的に解釈が難しいもののはず。・・・布団の量については、触れないでおきます。
とにかく、魔術を行う場所というものは、相当気を遣ってきれいに整えるのが普通です。その割りに部屋と縮図とのリンクはあっさりとクリアしました。これはもう、やはりインデックスさんに降ろされたヨハネのペン自身が、只者では無いと言う以外に解決法はありませんね。彼女はこの式に於いて術者ではありませんが、施術対象でありながら儀式の補佐役を務めています。小萌先生の卓越した即席術者適性あっての話ですが、こんな豪華な補佐役というのもないということなのでしょう。儀式は5分~10分ほどで解決しているはずです。しかも、傷は一瞬といっていいほどの速度で塞がっています。この儀式、実に畏るべしです。
正直、15分なら或いは医術で手当てできたかもしれません。全快までに15分ではないですが、要はインデックスの命を取り留めることが目的ですから。プロの外科医なら、傷口の縫合と消毒、そして輸血までそんなに時間もかからないと思います、20~30年先の科学技術ですし。もちろん、秘密の漏洩と、血液の交雑という問題があるので、ベターではなかったですが。
もしかすると、キリスト教魔術について馴染みが薄い方もおられるかと思いますので、蛇足の解説をします。
日時の確認ですが、これは星座の位置を把握するために行った側面と、昼と夜などといった時間の属性を知るための側面があると思われます。因みに、分秒まで正確に知る必要性は薄いです。
星座というのは、儀式場の位置と方角の関係を、簡略化して把握するためのものでしょう。また同時に、黄道12星座には対応した天使や属性、意味が割り振られています。魔法を簡単に強化するために、それらを借りることはいい方法、というか基礎的な行為になります。
以上の情報を元に、ヨハネのペンは術式を選択し儀式の方法を計算したのだと思われます。
血で魔法陣を描いたのは、その場に魔法陣を描ける素材を見出せなかったのもありますが、血文字というのが強い意味を持つためでもありますね。基本図形が五芒星というのは、恐らく天使を用いたキリスト教魔術だからです。周囲に配された呪文は、アルファベットですが、英語では無いようですね。ギリシャ語かヘブライ語でしょうか。アルファベットを用いるあたりは、イギリス正教由縁ですね。
「ブルーカラーのウンディーネ」というのは非常に魔術的な単語です。ウンディーネは水の精霊で、カラーというのは色属性、要するに儀式で見る光の色とでも言うのでしょうか、儀式の構成要素を挙げているわけです。つまり、「これを思い浮かべてください」という意味です。天使の名前「へるへいむ」というのは、寡聞にして知りませんが・・・天使と精霊を同時に用いるあたりが、キリスト教魔術らしくてよいです。本来なら、キリスト教は精霊の存在を認めません。当然、キリスト教魔術というのも、ベースがキリスト教であるだけで、キリスト教のお墨付きというわけではもちろんないです。キリスト教の庇護下でこっそりいけないことをする、という感じですね。イギリスというのはキリスト教国家であると同時に、ケルト文化を擁する魔法の国でもあります。妖精や地脈など、そうした土着の文化とキリスト教が混交した感じになります。キリスト教魔術(イギリス版)はそうした文化の寵児と言うわけです。
あっさりと成功した「神殿の構築」ですが、これは魔術を行う儀式場を整えた、という意味です。本来ならかなりの努力労力をもってして、はじめてこれを成し遂げるくらいに大変な作業です。小萌先生の散らかった部屋で、よくもこんなにすばやく場所の聖別をし終えたものです・・・もちろんですが、施術の時間を正確に計算して、魔術の継続時間を極限まで切り詰めた結果なのでしょう。魔法の本質を知り経験豊かであるヨハネのペンにしか出来ない荒業です。
詠唱する呪文についてですが、恐らくですが、前段階をすべて省いてますね。本来ならこの前に長い長い儀式場を固定するための呪文がいくつもあるはずなのですが、それらを省略して、魔法の本質、ピーク部分に当たる詠唱だけを突然行っているものと思われます。熟練術者にしか勧められない乱暴さです・・・小萌先生、本当について来れてすごいと思います。
次にイメージの固定。ヨハネのペンは「実際に天使を呼び出すわけではない」と言っていますが、これは小萌先生を説得する最短の台詞であるだけで、実際は天使を呼び出しています。イメージを作るというのは言わば「頭の中にレプリカを作りこんで行く」作業であり、そのレプリカを通じて、この場合「窓」程度の役割を担わせ、「窓」越しに天使の働きを請うています。天使からすると、自分の姿を思い浮かべて祈っているように見えますね。そしてそこから自分を呼んでいる。なので、その天使の力の一部を借りることが出来る寸法です。
因みに。
魔法の実行後にヨハネのペンは唐突にその任を解き、停止しますが、本来は魔術終了の儀式を行わないと駄目です・・・力を借りておいて、ありがとう、お帰りくださいもなしでは、天使や精霊の不興を買うこと間違いなしです。もしかしたら映像化されていない部分でそれを行ったのかもしれませんが・・・。なんとなく、「祭りの後」的な雰囲気の描写のほうを優先したのかもしれません。インデックスさんに戻ったことで、視聴者は魔法完遂を感じ取ることが出来ますしね。
結論としては、小萌先生すごい。です。
魔術を使うために必要な資質を、あの短いヨハネのペンとのやり取りの間で鋭く見抜き、その異文化を淀みなく受け入れることが出来たのですから。凄まじい器の大きさです。
いろんな意味で、彼女なくしてこの物語は成立しませんね。
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